必要性が薄いにも関わらず過剰な設計労力を要求する規定

建築基準法等の見直しに関する意見と要望|2008年2月21日
1.建築基準法施行令の構造材料の許容応力度の見直しについて
① 施行令第91条コンクリートの許容応力度

  • 旧来から、コンクリート許容引張応力度が長期F/30、短期2F/30と規定されている。
  • 現状の設計体系は、プレストレスコンクリートのパーシャルプレストレス部材を除き、全て0であり誤解が生じ設計ミスを誘導する原因となっている。
  • 施行令第91条では0と改正し、別途にプレストレスコンクリート構造の告示に引張許容応力度を追加すべきである。
  • 同様に、第91条には短期のせん断と付着の許容応力度が長期の2倍との規定があるが、十勝沖地震教訓を考慮した日本建築学会RC計算規準の1970年代前半の改訂以来、短期許容応力度は長期の1.5倍が確認審査の場合でも正規の取扱になっており、誤用を誘導する規定となっている。
  • 平成12年建設省告示第1450号の引張許容応力度および付着許容応力度の規定も上記と同じである。

② 施行令第97条コンクリートの材料強度

  • コンクリートの引張の材料強度が0ではなく数値が規定されている。
  • これは前項と同様設計体系上、つじつまが合わない規定である。
  • 平成12年建設省告示第1450号における、引張とせん断に対する材料強度も上記と同じである。

③ 施行令第92条鉄骨溶接継ぎ目ののど断面に対する許容応力度

  • 本条の規定は、突き合わせ溶接部とそれ以外の溶接部の2種類で規定されている。
  • 建築構造体では、溶接継ぎ目の合理化を図る目的で部分溶け込み突き合せ溶接が採用される場合があるが、この溶接ののど断面に対し偏心した作用力がなければ、突き合わせ溶接部の許容応力度を採用して問題がないことは周知の事実となっている。
  • 設計の合理化を図るため、部分溶け込み突き合せ溶接継ぎ目の許容応力度の再考を要望する。

2.告示における許容応力度の追加について

  • 平成13年告示第1024号「特殊な許容応力度」において、鉄骨部材の支圧の許容応力度等の規定がなされているが、鉄骨構造の設計体系において常用されている、柱脚や引張ボルト接合のベースプレートの板曲げに関する許容応力度が規定されていない。
  • 本件は告示で規定することを要望する。

3.告示での保有水平耐力計算における限界状態の追加

  • 平成19年告示第594号の4では、保有水平耐力の計算方法において、全体崩壊形、部分崩壊形、局部崩壊形の三種類が定義されたが、基礎の浮き上がりによる全体回転の崩壊形が現実の構造物では存在している。
  • 既存の建築物としてもこの崩壊形を採用し建設されたものが、高さ45mの片廊下式共同住宅等で見受けられる。
  • この崩壊形は浮き上がりによる回転が生じれば、それ以上の地震入力がない構造物である。
  • これらの建築物が基礎の回転が生じないものと仮定し、最大の構造特性係数Ds値0.55が必要であるとする法体系は過剰であり、基礎の回転に対し上部構造は余裕ある耐震性は付与するとしても、崩壊形の一形式として定義し、適切なDs値を設定すべきである。

4.告示での保有水平耐力計算における構造特性値Ds値について

  • 昭和55年告示第1792の第2、第3、第4、第5では、構造特性係数Ds値の設定がパラメータにより0.05ずつ階段状に変化させる規定であるが、パラメータの僅かの変化により、必要保有水平耐力が最大20%も変わる規定となっている。
  • 工学的にはこのように大きな数値で保有水平耐力を変える意味合いはない。
  • この規定はパラメータ数値を恣意的に偽装する要因となっている。
  • 構造特性係数Ds値設定は、階段状ではなく、滑らかに変化する規定に改正することを要望する。

5.冷間成形角型鋼管部材の告示と関連する仕様規定の追加

  • 平成19年告示第595号では、冷間成形角型鋼管柱による建築物の場合、ルート1,2の計算では柱・梁曲げ強度比や最下階柱脚強度倍率を、ルート3の計算では柱の終局強度を低減して評価する規定が設けられた。
  • しかし、冷間成形部材の靱性劣化の著しい隅角部と直接取り合う接合部(隅角部とガセットプレート等との接合)には規定がないため、バランスを欠いた状態である。
  • 冷間成形角型鋼管に本規程を設けるのであれば、隅角部取り合い部も規定することを要望する。

6.削除すべき告示の規定(耐力壁が過半の地震力を分担する建築物)

  • 平成19年告示第594号第2の三 イの規定で、一次設計時で耐力壁が過半の地震力を分担する建築物においては、ラーメン部分の地震力はその各柱が支持する重量に相当する地震力の25%以上とする、との規定があるが、以下の理由により過剰な規定と思われる。
  • 一次設計時で耐力壁が過半の地震力を分担する建築物はもともと壁の多い建物であり、ルート1やルート2-1、2-2においては、一次設計において告示第593号の二(2)などの規定により、耐力壁の設計用応力は一次設計分担地震力に対して割増をしており、十分な強度を確保する設計法となっている。
  • ルート3においては壁が多い場合には大きなDs値を採用することになるので十分な強度を確保することは同様である。
  • ラーメン部分の地震時応力割増は、耐力壁に取り合う境界梁、およびその境界梁と取り合う柱において、数値設定が複雑であり、骨組モデルを変えた応力変形解析を別途に行わなければ特定ができない。安全性確保の上で効果が薄いにも関わらず過剰な設計手間を要求する告示であるので、この規定を廃止することを要望する。

7.免震構造物における表層地盤増幅率の精算式不適用の緩和について

  • 近い将来の大地震襲来の危険性増大が予想される状況において、小規模建築物においても免震構造物の普及が強く望まれるところである。
  • 今回改正にて、限界耐力計算を行う建築物や免震構造物の場合の地震力を設定する告示において、表層地盤地震増幅率の精算式適用は広範囲の地盤調査がなければ、不可と規定された。
  • しかし、免震構造化による耐震性向上効果は、広域地盤調査不足による不確定さを大きく上回るものがある。
  • この規定は小規模建築物の免震構造化普及の妨げになっているので、小規模免震構造物に限って、前記の不確定さを補う安全率をもたせ、精算式を適用する道をひらくべきである。

8.構造詳細図において、部材の有効細長比を記入する規定について

  • 施行規則に新たに構造詳細図の部材すべてにわたって有効細長比を記載する規定が設けられた。
  • しかし、通常の建築物において細長比は大きく設計を左右する情報ではなく、有効細長比となるとラーメン座屈の現象を詳細に解析しなければ解が確定しない情報でもある。
  • 必要性が薄いにも関わらず過剰な設計労力を要求する規定であり、削除することを要望する。

9.既存建築物の隣接増築時の取り扱いについて

  • 増築部面積が既存部の1/2超の場合は、「既存部分は許容応力度計算を行い確認する」が基本となっていると認識している。
  • しかし、現行基準に適合しているかどうかの判断のために新たに構造計算書を作成することは多大の時間を必要とし、増築の停滞を生んでいると考える。
  • 1981年以降建設の建物については、既存部分の構造計算を実行する前に、現行基準への適合に対するチェックリストを活用し、検討項目を限定する運用を行うことが解決法になると考える。
  • 行基準への適合を判別するためのその案を当協会で作成中であるが、この活用方法を考えていただきたい。
  • また、1981年以前の建物については、仕様規定の問題などにより現行基準に合わせることは困難な場合があるが、補強によって現状の耐震性能と同等のものとすることは技術的には可能と思われる。
  • 耐震診断によって1/2超の増築を可能とすることにしていただきたい。

10.技術基準解説書 検討する方向に対し角度をなす耐力壁の壁量計算

  • 従前から法令解説として技術基準解説書(2007年版343頁)に、耐力壁の壁量計算において、検討する方向に対してθの角度をなす壁の壁量は「断面積にcos2θを掛けて定めてよい」と解説されている。
  • これは耐力壁の剛性を集計しようとしているのか、耐力集計なのか、工学的意味合いが不明である。その点を再確認し明解な解説とすることを要望する。

以上

日本建築構造技術者協会:構造計算書偽造事件関連情報一覧