カビ型違法行為|実態と乖離した法令

コンプライアンス不況にどう立ち向かうか

  1. 建築基準法という「法令」や建築確認という「制度」ではなく、会社の信用と技術者倫理が日本の建築物の安全性を支えてきた。
  2. 1981年の建築基準法の改正で耐震基準が初めて導入された際、その基準は既設建築物には適用されず、それ以降のものだけに適用されることになった。それ以前に建築された建物には、今回問題になった耐震強度が偽装された建物より耐震性が低いものも多数あるが、新耐震基準の適用の対象とされなかった。
  3. このことが、耐震性能に関して建築基準法の基準の性格を非常に曖昧なものにしてしまったことは否めない。「最低限の基準」なのであれば、絶対に満たさなければならない基準という認識で設計・施工が行われ設計者・技術者の倫理観も十分に働くはずだが、基準が満たされていない建築物が実際には多数あるということであれば、絶対的な基準という認識は希薄になってしまう。
  4. 1981年以前に建築された建物には、偽装事件で問題になった耐震強度が偽装された建物より耐震性が低いものも多数あり、もし、地震で倒壊する恐れのある危険な建物の存在が問題だというのであれば、日本中の多数の建物の使用を禁止にしなければならなかったが、社会の関心は、偽装行為を叩き、偽装の再発を防止することばかりに向けられてしまった。
  5. 実態と乖離した法令
  6. 鋼管データの捏造問題
  7. JIS規格という法令上の規則が実態と乖離したまま放置されていた
  8. 鋼管溶接技術の向上のために水圧試験を実施する意味はほとんどなくなっていたが、規格上は全量検査が必要とされていた。
  9. それが水圧試験データの捏造が長期間にわたって恒常化することにつながった。
  10. そのようにして恒常化した不正行為は、企業内で広い範囲で認識されていたはずだが、そういうカビ型違法行為(組織の利益のために組織内のポストに随伴して行われ、長期間にわたって恒常化し、広範囲に蔓延している違法行為。これに対して、個人の利益のために個人の意思で行われる単発的な違法行為を「ムシ型」と言う)に対しては、「法令遵守」を上から下に命令してもほとんど効果はない。