「日本はClarityがない」

JINA -- Japanese IN America
――CMが日本にない理由というのは何故だと思いますか?
戸谷茂山さん それはゼネコンが全部やっちゃっているからでしょうね。どんぶり勘定で全部作るんで第三の立場の人がマネージするものがないんです。日本でCMと呼んでいる人もいますが、あれはマネージメントではないですね。実際僕がアメリカで学んだのはコンストラクションのknowledgeというよりは建設というもの事態の構造、社会の仕組みです。
――日本とアメリカの両方で建設業界に関わっていらっしゃいますが、アメリカと日本の建設業界の違いなどがあれば教えてください。
戸谷茂山さん 一番決定的に違うのはClarityですね。日本はクラリティーがないです。設計も中途半端で、ある意味でそれがいいという人もいるしそれが悪いと言っているわけではないですが、僕にはこちらの方が合っています。責任関係がしっかり分かれているほうがいいです。ただあまりにもそれが過ぎてストレスがたまることもありますが。オーナーから「訴えてやる」という電話がバンバンかかってきて、やっぱり日本が良かったと弱気になることもありますから。(笑)
――逆にアメリカの建設会社が日本から学べることはありますか?
戸谷茂山さん 日本のマスタービルダーのように、設計から施工まで全部やるというやり方はある意味で理想なんですね。結局ペーパーワークや人員も削減できるし、やっぱりアメリカもそのうちそうなっていくと思います。ただ日本ではそれが汚職の温床みたいになっちゃっているんですが。
こっちは接待もあまりないし、本当にクリーンですよ。あと日本だと施工会社というのは設計者を先生扱いしますけれど、こっちはそういうのはないですね。施工会社も建築家もみんな平等です。

JTPA: 私が米国の建設会社で働いている「長い」経緯

  1. どんなに誠実に設計をしても、設計者の立場では施工費をコントロールすることは出来ません。
  2. 施主がコンストラクション・マネジメントを利用すると、建設費は下がり品質は向上され、工期も短縮される
  3. 日本には存在しない職能で、単語のとおり、建設を施主に代わって「マネジメント」するという仕事
  4. アメリカ社会では何事にもマネジメントの価値が重視されています。
  5. 才能に関係なく、マネジメントが誰にでも学べる方法論として確立されているのが米国だった
  6. 西海岸は建設については東海岸と比べても前衛的で、かつ、汚職などの問題が少ない
  7. 西海岸で利用されている建築法規のUBC(Uniform Building Code)は日本の建築基準法の元になったもの
  8. 契約社会として法の力が強い米国では、常に全てのことについて公平さが重視されます。
  9. 「ドンブリ勘定」の日本に対して、「適正価格」の米国、という比較を良く私は使います。
  10. 建設がマネジメントされれば、施主は高品質な建物を適正価格で建物を建てることが可能でありながら、施工会社も低くても確実な利益を得ることが出来るのです。
  11. 日本式のドンブリ勘定方式は、建設費を吊り上げたばかりか、汚職の温床となってしまっていたが事実でした。
  12. CM業とは高品質な建物を適正価格で建てるために「建設を裁く」職能だったのです。
  13. CMの局面も建設に関する工程管理や品質管理、施工技術だけでなく、管理会計、経営、マーケティング、法、人事などと広範囲に拡がっているためか、ほぼ50%がビジネスのクラスと関係を持っていました。
  14. コンストラクション・マネジメントの「マネジメント」という学問は、ビジネスと共有されているのも印象的で、改めて「マネジメント」の分野を超えた価値をよく教えられました。
  15. 実際にCMの学生の多くはビジネス学部とDual Degreeを取得しており、中にはそのままMBAに進む学生もいました。
  16. CMとは、あくまでも施主の利益を守るのが仕事であり、この職能は基本的に米国全土で効果的な職能として確立されている
  17. 自動車の製造と異なり、建設とは、契約方法、土地、設計、施主、法規、規模、コンサルタント、下請けがプロジェクトごとに毎回異なります。そのため、建築の生産性の向上を方式化するのは「不可能」とまで言われてきました。そういった建設のプロジェクトは非常にダイナミックであり、マネジメントの技能が非常に重要視されます。全てのプロジェクトにはそれぞれ異なるCMの方式がデザインされなくてはいけないというのがCMのあるべき理屈でもあります。
  18. 自動車製造のように方式化できない建設をどうやって効率よく行うか、というのは人間が建物を建て初めて以来の悩みでした。いい加減なCM会社になると、ただ単に施主の代行で財布の紐の管理をしているだけで、まったく建設に関与しないところもあるくらいです。
  19. 時には議論は建設の生産性を本質的に上げるためには、建築設計から向上されなくてはいけないという内容にまで発展し、教授はそういった我々のためにDesign-Build(設計施工)を学ぶ特別な夜学のクラスをわざわざ作り上げてくれました。
  20. 例えば、DPRはコンピュータのレンダリングと時間軸を融合した「4Dモデリング」という方法で、立体的に工程管理を行うような努力をしています。
  21. 私が働いたプロジェクトで、総工費が100億円以上ある巨大プロジェクトがありましたが、プロジェクト・マネージャーはなんと27歳の女性。若くて経験が浅いため、彼女の建設についての知識には限りがありましたが、会社は彼女のマネジメント能力を高く評価したのでしょう。実際に彼女は施主との関係を上手に保ちながら、会社に確実な利益をもたらし、現在は30歳にしてオフィスのオペレーション・マネージャー(取締役)まで昇級してしまいました。
  22. 米国の「マネジメント」への執着は、だれでも方法論を学べばサクセスできるという合理的な考えの上に立っています。これはアメリカ社会の姿勢そのものであり、才能なんて関係なく、「ちからわざ」で自分をかなりのレベルまで向上できるのがこの社会であることも知りました。
  23. コラボレーションのような形で米国型CMを日本に持ち込む方法も模索中です。建設の生産性向上についてのアイデアも、自分の内部ではちきれるほどに膨れ上がっています。